哲数物を学ぶ

自然科学のことや自分の経験や考えたことについて書いていきます.

『春宵十話』を読んだ

『春宵十話』著.岡潔 1963年

を読んだ.

岡潔氏は,日本を代表する世界的な数学者である.多変数関数論が専門で,当時の未解決問題を独自に作り出した概念を用いていくつも解決した独創的な数学者として知られている.
彼は第二次世界大戦を経験し,戦後と戦前で現れた日本民族の大きな変化を肌で感じ,そして将来の日本を憂いていたようである.
本書は彼が話したことを,新聞社の方がまとめてエッセイ風に文にしたものである.

はしがき冒頭の「人の中心は情緒である.」という一文は岡氏の思想が端的にまとめられている.日本人には日本人特有の情緒というものがあってそれを表現することの大切さを岡氏は説いている.

情緒というと現代で日常的に使われるのは「情緒豊か」,「情緒不安定」というような用法である.情緒は人間の感性や感情,つまり人間の動物的な部分の上にある,人を人たらしめる理性の器を表した言葉なのであると私は思う.そしてひとそれぞれの持つ情緒がいろいろな思想に直接につながっている.
岡氏が感じていた日本人の思考能力の低下の傾向は戦後70年たった今も続いている.よくニュースでも考える量の足りていない人間が奇怪な犯罪を犯しているのが多くみられる.せめて何が他人の迷惑になるのかくらいは判断できるようになってもらいたいものだが,これはもう叶わないことなのだろう.完全に情緒が失われてただの動物になってしまっているからである.
私自身も良く考えられる人間でありたいと日ごろから心がけているが,身の回りの環境に振り回されることもしばしば.私の意志の力はあまり育たなかったようである.

日本の政治の教育の優先度の低さは恐怖を感じるレベルである.きっと誰かが日本を衰退させるために陰謀を働かせているのであろう.そう勘繰ってしまうほどの愚かさである.岡氏が今の日本を見たら非常に悲しむであろう.



春宵十話 (角川ソフィア文庫)

春宵十話 (角川ソフィア文庫)