哲数物を学ぶ

自然科学のことや自分の経験や考えたことについて書いていきます.

1次元イジング模型はマルコフ連鎖確率過程をなす

設定と表記方法

最近接相互作用のみを持つ1次元イジング模型を考える.この系のハミルトニアン

\begin{eqnarray}
H(\{\sigma_i \}_{i=1})=-J\sum_{i=1}\sigma_{i} \sigma_{i+1}-H\sum_{i=1} \sigma_{i} \tag{}
\end{eqnarray}

とする.\sigma_iはスピンの値(±1)を表す.Jは近接間の相互作用の強さ,Hは外場の強さを表す.(参考1)

\{\sigma_i \}_{i=j}という表記は添え字 i = j,j+1,j+2,… で走る±1の値の列を表す.例えば5粒子系で2番目からのスピンを見れば, \{\sigma_i \}_{i=2} =\{\sigma_{2},\sigma_{3},\sigma_{4},\sigma_{5} \}= \{ +1, -1, +1, -1 \}というような 16(= 2^4)通りのスピン列のパターンが考えられる.

このハミルトニアンをもちいてカノニカル確率分布は

{\displaystyle p(\{\sigma_i \}_{i=1} )=\frac{1}{Z} \exp \left(K\sum_{i=1} \sigma_{i} \sigma_{i+1}+h\sum_{i=1} \sigma_{i} \right) \tag{}}

と与えられる.(これはスピン列のパターンが\{\sigma_i \}_{i=1}となる確率を表す.)ただし, K=\beta J , h=\beta H,Zは分配関数

{\displaystyle Z= \sum_{\{\sigma_i =\pm 1 \}_{i=1}} \exp \left(K\sum_{i=1} \sigma_{i} \sigma_{i+1}+h\sum_{i=1} \sigma_{i} \right) \tag{}}

である.(全てのスピン列のパターン( 2^{粒子数}通り)について和をとっている.)

分配関数は厳密に計算ができるがここでは省略する.(参考2)

また,この先で転送行列の考えを用いるので知らない方は他のサイトや統計力学の本に一度目を通していただきたい.(参考2,5,6)

ここでは以下のように転送行列Tを定義する

(T)_{\sigma_i \sigma_{i+1}}=\exp \left(K\sigma_{i} \sigma_{i+1}+\frac{h}{2} (\sigma_{i} +\sigma_{i+1}) \right) \tag{}

${\displaystyle T=\left( \begin{array}{cc} (T)_{+1,+1} & (T)_{+1,-1} \\ (T)_{-1,+1} & (T)_{-1,-1} \end{array} \right) =\left( \begin{array}{cc} e^{K+h} & e^{-K} \\ e^{-K}& e^{K-h} \end{array} \right) } \tag{}$

この転送行列Tを用いるとカノニカル確率分布は

{\displaystyle p(\{\sigma_i \}_{i=1} )=\frac{1}{Z} \prod_{i=1} (T)_{\sigma_i \sigma_{i+1}} \tag{}}

と表される.

i番目のスピンの値が\sigma_iである確率p(\sigma_i)はi番目のスピンの値が\sigma_iである全てのパターンの確率を足したものである.よって

{\displaystyle \begin{equation}
p(\sigma_i) =\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j\neq i}} p(\{\sigma_j \}_{j=1} )
=\frac{1}{Z} \sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j\neq i}} \prod_{j=1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}} \\
=\frac{1}{Z} \left \{ \sum_{\sigma_1 =\pm 1 } (T)_{\sigma_1 \sigma_i} \right \} \sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j= i+1}} \prod_{j=i} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}
\end{equation} \tag{}}

と表せる.

証明

命題
この系の配置を左から右に向けての離散的な時間発展記録としてみれば,マルコフ連鎖確率過程となる.

この命題を示す.添え字iが離散的な時間として,時間iにおけるスピンの値を\sigma_i(=\pm 1)として考えればよい.総和と総乗の記号がややこしいかもしれないが一度紙に書き下したりすれば式の構造が理解しやすくなると思う.

マルコフ連鎖の定義に沿って

{\displaystyle P(\sigma_{i+1} |\sigma_1,\sigma_2,\ldots,\sigma_{i})=P(\sigma_{i+1} |\sigma_i) \tag{}}

となることを示そう.(参考4)

この式の左辺は1番目からi番目のスピンの値が\{\sigma_1,\sigma_2,\ldots,\sigma_{i}\}であるという条件があるときにi+1番目のスピンの値が\sigma_{i+1}となる確率である.

{\displaystyle \begin{equation} P(\sigma_{i+1} |\sigma_1,\sigma_2,\ldots,\sigma_{i})
= \frac{P(\sigma_1,\sigma_2,\ldots,\sigma_{i},\sigma_{i+1})}{P(\sigma_1,\sigma_2,\ldots,\sigma_{i})}
= \frac{\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+2}} p(\{\sigma_j \}_{j=1} )}{\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+1}} p(\{\sigma_j \}_{j=1} )} \\
=\frac{\left \{\prod_{j=1}^{i-1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}} \right \}(T)_{\sigma_i \sigma_{i+1}} \sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+2}} \prod_{j=i+1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}}{\left \{\prod_{j=1}^{i-1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}} \right \}\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+1}} \prod_{j=i} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}} \\
=\frac{(T)_{\sigma_i \sigma_{i+1}} \sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+2}} \prod_{j=i+1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}}{\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+1}} \prod_{j=i} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}}
\end{equation} \tag{}}

右辺も同様に

{\displaystyle \begin{equation} P(\sigma_{i+1}|\sigma_{i})
=\frac{P(\sigma_{i},\sigma_{i+1})}{P(\sigma_{i})}
= \frac{\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j \neq i,i+1}} p(\{\sigma_j \}_{j=1} )}{\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j\neq i}} p(\{\sigma_j \}_{j=1} )} \\
=\frac{\left \{\sum_{\sigma_1 =\pm 1 } (T)_{\sigma_1 \sigma_i}\right \} (T)_{\sigma_i \sigma_{i+1}} \sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j= i+2}} \prod_{j=i+1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}}{\left \{ \sum_{\sigma_1 =\pm 1 } (T)_{\sigma_1 \sigma_i} \right \}\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j= i+1}} \prod_{j=1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}} \\
=\frac{(T)_{\sigma_i \sigma_{i+1}} \sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+2}} \prod_{j=i+1} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}}{\sum_{\{\sigma_j =\pm 1 \}_{j=i+1}} \prod_{j=i} (T)_{\sigma_j \sigma_{j+1}}} \\
=P(\sigma_{i+1} |\sigma_1,\sigma_2,\ldots,\sigma_{i})
\end{equation} \tag{}}

である.よって命題が示された.

このことはつまり,未来のスピンの値は現在のスピンの値のみに依存するということを指している.

参考文献

  1. イジング模型 - Wikipedia
  2. ときわ台学/統計力学/1次元イジングモデル,転送行列の方法,繰り込み群の方法
  3. http://school-crc.kek.jp/SummerSchool06/HTML/text2/node7.html
  4. マルコフ連鎖 - Wikipedia
  5. 相転移・臨界現象の統計物理学  新物理学シリーズ

    相転移・臨界現象の統計物理学 新物理学シリーズ

  6. 統計力学〈2〉 (新物理学シリーズ)

    統計力学〈2〉 (新物理学シリーズ)